職人とは凄いもんだと昔から尊敬していた。自分自身の手先が超不器用であるため、モノづくりを極める、モノと向かいあう仕事をしている方々に対しては、自分にはできないことをやっている方という尊敬の念がある。またモノづくりで生活するということは、対価を得るまでに並々ならぬ修行や努力の上に成り立っていると思うと、忍耐の仕事である。なおさら頭が下る。しかも、自分が日ごろお世話になっている身近なモノを作っておられる方、おまけに二代目三代目と聞くと足を向けて寝られない。コツコツ仕事を重ねる、熟練の技をもつ、商いとは「あき(飽き)ない」といわれるがまさにそう。仕事とは「続ける」が一番尊いこと。菓子職人、お菓子屋さんとはそのなかに含まれるお仕事である。 ケーキ屋さんについての話はこの新聞でも何回か取り上げてきたが、日本人の生活の「西洋化」の軌跡とともに育ってきた趣深いビジネスであり、20世紀経済の発展とともに日本人に夢を与えてきた商売でもあり、今、日本中がプチブルジョア的になった今、デザートは「自分へのご褒美」商品となり、業界は成長期のピークにあるともいえる。 東京のデパート地下の動きを見ていると、このケーキ業界(最近はデザート業界とか、スィーツー業界といわれている)の凄まじい戦いを垣間見ることができる。ここまでこだわるかというほど高級感に溢れ、繊細かつ種類も豊富なお菓子たちのディスプレイを見て、感嘆するばかりである。日本独特のチャレンジであると思う。 私たちの子供時代、ケーキとは誕生日にはじまり、クリスマスに食べる、あるいは学校の先生の家庭訪問など特別なゲストの日に出されるおもてなしの品であったし、時にそのお客様がカステラとかクッキーの詰め合わせとかお土産で持ってこられるとうれしくて飛び上がったものだ。そんな貴重品だったお菓子が、今や選ぶのも大変なぐらい、またお菓子屋さんの名前を覚えられないくらいに数が増えている。そしてお菓子は日常化した。もともとお菓子屋といえば、和菓子の普及が先で、その和菓子屋がカステラやクッキーを作って売りだす…というのが洋菓子普及のはじまり。 そののち、洋菓子専門店ができ、さらにチェーン展開する企業が登場、一方でスーパーやコンビ二の店頭でも高級感あふれる洋菓子が種類豊富に売られるようになった。そして最近ではインターネットでも洋菓子を買うことができ、生活者はわざわざ店に行かなくても、全国どこであっても旬の食材を使った、美味しいお菓子を「取り寄せる」ことができるようになった。また、「限定品」と書くほど売れるという現象。 地域密着で生きてきたお菓子屋さんたちがこつこつと日々の仕事をしてきた間に、日本中にお菓子ビジネスが広がり、知らぬ間にライバルが増えてしまったのだ。気づいたら回りはお菓子屋だらけ…決して笑い話ではない…という状況。 お菓子に限らず職人の技で、ひたすら地元志向でこつこつとやってきた専門店が同じ状況である。大手参入、異業種参入のなか厳しい生存競争にさらされているともいえよう。そんな状況のもと、地域密着で長年地道にがんばってきているお菓子屋さんに元気と自信をもってパワーアップしてほしいという思いを込めて、このたびお菓子の包材メーカーさんのリクエストにより、元気なお菓子屋さんづくりのための「デザートフォーラム」を企画。本邦初の企画をもって全国各地へキャラバン?展開している。 もともとお菓子業界では、原材料メーカーの新素材・新食材提案のための「作り方教室」のようなセミナーが多く、「どんな新商品を作ったらよいか」という研修はあったものの、マーケティング志向で市場をみつめ、自らのあり方(コンセプト)を問い、商品だけでなく、パッケージからサービスにいたる「コミュニケーション」が大切であることを知り、実践する…というセミナーはなかったようだ。さらに、地方で商売をするお菓子屋さんが対象なので、地域密着ということも意識した。 セミナーの内容は、1部がパッケージ包材会社のデザート生活デザイン研究所なる「デザート調査隊」による首都圏のデザート市場動向の報告。最新のお菓子のトレンドが理解できる点で地域のお菓子屋さんには大変有益な情報である。2部は「地域一番繁盛店を目指せ。元気なお菓子屋づくりは五感動コミュニケーションで」というテーマのマーケティング発想啓蒙講座。続いて3部はそれを受けて「地域密着」をテーマに実践、繁盛店の事例紹介とそこで作ったデザートの紹介とパッケージ応用の提案、試食。4部はデザインパッケージ活用のヒット商品の事例紹介と最新パッケージの提案…といった内容である。たっぷり4時間はかかってしまうが、それでも聞いたらお得!ぜひ聞いてほしいという内容。 尚、現場で仕事をもち製造に企画に、管理にと一人何役もこなさなければならないお店も多いので、開催時間をぎゅっと濃縮して実施。慣れない長時間の聴講も大変であるが、情報が多い分刺激も多く、たまにはよい?…と、とにかく試行錯誤ではじまった当セミナーは包材会社とそのパートナーである地域の菓子原材料問屋さんとの協力・ご努力により各地で多数の聴講者を集めることができた。新潟での約80名セミナーを皮切りに、山形、浜松と続きおかげさまで盛況。これからも名古屋、札幌…と全国行脚は続く。 毎回自分が実際に講演を担当する2部では毎回その地域の生情報を盛り込むなど、いかにその土地の方に「自分の問題意識」として考えていただくか、感じていただくかの工夫をする。そのために各地の講演前日にその町に入り、地元のお菓子屋さんを何軒か回り、市場性を五感で把握、資料に盛り込む。お菓子屋さんは思った以上に「地域性」「地域の文化性」がある。実に新鮮で感動がある。今、地域密着の専門店に求められていること。まさに「マーケティング思考」であると改めて思う。これは最新の情報を入手することだけでなく、お客さまが何を求め、それに対し自分自身が何で以て応えるか…という「意志ある実践」を意味する。 「お菓子屋さん」という身近であり、人々に夢を与え続けてくれたこの商売のますますの繁栄のために、微力ながらコミュニケーションクリエイターとしてできることを実行したい。そしてこのお仕事のおかげで、各地のお菓子屋さん仲間が出来つつある。ありがたいの一言に尽きる。 素晴らしい勉強の機会を与えていただいた I 社の皆様に心より感謝申し上げる次第である。
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