33歳のとき、はじめて台湾を訪問した。所属しているマーケティング団体の国際会議参加のため。はじめて目にした台北の町は、「昔の日本みたい」という印象。自分の子どもの頃よりももっと昔…。テレビで見たことのある30年前の両親たちの若い時代に似ている…。とそんな感じだった。大きな漢字、ド派手な色の看板、日本企業のロゴの数々…。外国に来たというよりも、どっか懐かしいところに来たような…とそんな印象だったことを覚えている。そんな時に驚いたのは、昔の日本といいながらもその当時、すでに台北市内にコンビニがひしめきあっていたこと。昔の日本といいつつ、便利さは超モダン!!…という不思議な感覚だった記憶がある。新旧の日本が凝縮されている。
35歳から台北に通い続け、日本市場のトレンドを伝え続け、コンビニの市場開発に関わらせていただいた。台湾は日本の5分の1の面積しかないのに、コンビニ競争は飽和を超え、ますます激化する一方…。日本でのコンビニ戦争と同じような現象が、台湾でも起きている。
台湾人の多くは、日本が大好きだ。日本文化に敬意と憧れをもち、その受容には何の抵抗もなく、好意をもって受け入れられている。台湾の若者は日本文化が大好き、日本旅行も大好き。日本のトレンディドラマも私なんかよりもよく知っており、あまりタレント名を知らなくて「あなた、日本人なのにそんなことも知らないんですか~」といわれないように何とか誤魔化してきた。それぐらい、世界中で日本の市場動向に興味関心をもって接してきた国は、台湾以外にないのでは…と思うほどである。
一方、今年の旧暦のお正月にはじめて台湾~中国の直行便が飛んだというニュースが巷を駆け巡ったが、約100万人の台湾人が中国で働き、生活をしているという。上海・北京・広州…台湾人が活躍するメインランドの市場はとてつもなく大きく、またチャンスも多い。大陸に出ていった台湾人は、台湾出身というアイデンティティーを忘れることなく、誇りをもって活躍している。中国市場で大成功をおさめている食品メーカーやサービス業なども少なくない。台湾市場と比較にならない大陸の市場規模に夢をもち、移動するヤンエグ家族も多い。私の周りにも何人かの台湾人が上海でがんばっている。
彼女たちは、年に2回、ふるさと台湾へ帰ってくる。直行便が飛ぶまでは、香港・マカオ経由といった実に不便な道のりであった。近いのに遠い故郷。懐かしい台湾の地を踏み、短期間の休日時間を実家の両親たちとともに過ごす。
先日、旧暦の正月、上海から台北に帰省した友人と、台北で再会した。「今尾さん、台湾はどこか最近おかしくないかと思う。リトルトーキョーみたいでは。日本と何でも同じすぎる。上海ではこういうことはない。また、台湾の女性は子どもっぽくないか。いい年をして今だにキティちゃんとか好きで『かわいい、かわいい』といっている。どうしてこんなことになってしまったんでしょう。私が台湾を離れて暮らしているから余計に感じるのでしょうか…」という言葉に、私もショックを受けた。
確かにそうだ。次々に変貌を遂げ、経済的発展を続け、走り続けている上海には、大きなパワーがあると同時に独特の文化があり、またそこには一見、国際都市にふさわしい、かっこよさ、スタイリッシュさもある。一方、台北では、あいかわらずの活気はあるし、人々は元気であるが、確かに…自らがどちらの方向へ進むべきなのかについて、明確な道が示せないでいる「迷い」も感じる。個々人はいい人の集合体なのだが、どっちへ行くのかよくわからない…。
台湾が独立を求めれば求めるほど、中国と別の存在を主張すればするほど「台湾らしさ」の明確な定義づけは難しくなってきているのも現実ではないかということも感じる。また、台湾らしさを表現しづらいからこそ、日本文化そのまま…という面も現実問題としてあるのかもしれない。オリジナリティーを見出しにくくなっている台湾…。今、私は日本の真似ではなく、日本をはじめ各国を参考にし、自分たちの市場にあった独自の開発・マーケティングを行うことの大切さを伝えたいと改めて思っているが、根底にある問題は易しいものではなさそうだ。
上海へ出ていった台湾人のことを、台湾在住の若者は、「彼らは金儲けしか考えていないんだ」と力を込めて批判することもある。台湾の中での働き手世代の分裂が着実に進んでいることも痛感し、複雑である。
さて、日本人として感じていること。
多くの企業が国際化を標榜し、アジア戦略を語るとき、必ずターゲットになる中国進出。とくに上海進出は、大手・ベンチャーを問わず、業界を問わず、日本企業としての使命のごとくである。しかしながら、耳にするのはいい話ばかりではない。中国独特の商習慣に慣れない、純粋な日本の企業は、あるときは痛い目にあい、余儀なく撤退を強いられたり、本当に信頼できるパートナーをみつけられずにいる。
日本企業はどうすれば巧くアジアに進出できるのか? この問いに対し、台湾の流通業界のキーパーソンはいう。
「日本人は大陸進出について、もっと台湾を活用すべきですよ。台湾はもともと中国人であるから、中国の商習慣も理解でき、解決策もわかる。ネゴシエーションもうまくできる。その資質と経験をうまく活用することで、日本は失敗することなく、アジアへ進出できるはずです。多くの事例がそれを語っています。台北と上海はマーケットに共通点もあります。台湾で成功し、そのあと上海へ出ていけば、人材活用も含め、リスクが少ない。そのことをもっともっと日本人は理解すべきじゃないですかね。
今どき、日本だ、中国だ、台湾だ…ではなく、この一帯は、『東アジア商圏』という意味において、『ひとつのエリア』になれるはずです。国際ビジネスには『真のパートナーシップ』が不可欠です」と。
本州の南に九州があり、沖縄があり、そして台湾である、それが大陸へつながっていく…と。同じアジア同盟として、自分たちのもっているポテンシャルをもっと活用してほしいという意味であろう。
台湾の人が大好きである。真面目である。一生懸命である。明るく、元気である。そして商魂たくましく、日本人が置き忘れた熱いパワーももっている。日本はそろそろカタチだけのブランド主義ではなく、本当に自分たちの生きる道を模索していく必要がある。そこには、真のパートナーシップの意味をもう一度見直すということも含まれる。台湾の生きる道も、日本が進むべき道も、ともにそこに集約されるような気がする。人と人、企業と企業、国と国の関係は、お互いにお互いの成長発展を願い、ともに共感・共有する、そしてともに苦労できる「関係」でなくてはならない。それは従属ではない。対等であり、やはりパートナーシップなのである。
台湾の企業のとある幹部がこういった。「あなたも、家族の一員ですから。お互いにがんばりましょう。」 そう、アジアは家族になれないか? 世界は家族になれないか?私は、日本に生まれたひとりの人間として、関わる人・企業の「架け橋」としてお役にたてるよう、尽くしたい。
人は同じ地球の上に立っているんだから…。
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