一呼びかけ人が未知の国「イタリア食のツアー企画」に堂々参加??
一昨年、知人たちがはじめた「日本ミールソリューション研究会」という組織。大変大げさな名前に聞こえるが、その志は「企業と生活者と自治体の三者を結び、日本本来の豊かな食文化の創造を目指す」(会が発行している公文書とは多少表現が違うと思うが)と大変真面目である。当方も作る世界では「食のプロ」には縁遠く、もっぱら飲み食いするしか芸がないのであるが、人々のくらしにもっとも身近なテーマであるという点で「食」には関心も高くあちらこちらで好きなことを口走っているうちに、生活者視点での発言、活動も重要として、なぜか当会の呼びかけ人のひとりとして活動に多少関わらせていただくようになった。「食」が楽しくなり、ハッピーになるためのことだったらいいじゃない!という、いつもながらのラテンなノリである。この会では、定期的に食の生産、流通や外食産業のホットな現場の視察やセミナーを企画しており、年に2回は海外ツアーをということで、今回は「元気なイタリア」の食の現場を体験するツアーを企画することとなった。
気軽に受けたはいいが、実は36年間一度もイタリアへは足を踏み入れていない。イタリア料理店でカンツォーネなど奏でているのに、実は本場を知らない。これではいけない。これを機会に生のイタリアを体験しよう。そんな自らの意思もあり、精力的に今回のツアーの企画に協力した。お世話になったのは在イタリア暦30年の画家であり、料理研究家である荒井徹さん、また恵比寿のレストランのお引き合わせで知り合った食品メーカーでメニューアドバイザーをされている米本さん、その他そのご紹介でさまざまな情報をいただいた食関連のお仕事の方々、イタリア関係の方々などなど。普通では回れないところを企画しようということで、今回は「南イタリア」を中心としたプログラムとした。情報も少ないだけに大変苦労したが、何とかユニークな訪問先が決まり、日経流通新聞にも広告が出たりした。ツアーのプログラムは日本人には聞きなれない「チステルニーノ」という街での朝市、オリーブオイル、ワイナリー、パスタ工場の視察、そして地元の主婦たちとの手作りパスタ見学などなど。続いてナポリでは、「トマト博士」によるトマトとピザのレクチャー&会食。水牛で作るモッツェレラチーズの牧場視察、レモン酒工場の見学。最後ローマでは伝統のイタリア食を世界中に啓蒙することを主旨として活動する団体「チャオイタリア本部」の視察などなど。ほぼ企画が決定したところで、当方は止む無き事情でツアーの前半は参加できず、ナポリからの合流となった。

危険なイタリア、食事は安心、大満足。でもこれじゃ胃が牛になる?
パリ経由で港街ナポリへ。ツアーの仲間たちとの合流を目前に、ナポリの空港でしばしたじろぐ。なんせ初めてのイタリア、最初の訪問地がナポリ。イタリア語は挨拶と若干の歌の歌詞とミルヴァとマストロヤンニしか知らない。しかも一応は女の一人旅。正直ナポリの空港はローカルなのでストレンジャーにとっては少しスリリング。でも立ち止まるわけにいかないのでタクシーに乗って待ち合わせのホテルまで、無事到着。まずは本場のカプチーノを1杯。カップ1杯のくつろぎがイタリア上陸の喜びを沸き立たせる。
しばらくしてチステルニーノからバスで移動してきた仲間たちと合流。元気に旅の前半をおくってきたようで安心。さて、トマト博士のセミナー夕食会に出発。と指定された約束の場所(某氏の邸宅)へと向かったが、その博士なる人はまだお出でになっていない。あと1時間かかるとのこと。しかも、登場するのはトマト博士ではなく、トマト缶詰工場の社長たち。多少の話の食い違いも仕方ない、せっかく来たのだからと20時開始の夕食会を近所のBARでビールを飲みながら待つ。いつのまにか待つ日本人たちもイタリア的ライフスタイルに慣れてしまっている。(海外ツアーのコーディネイトにはこんな待ちぼうけや食い違いはあるものだ。楽しくいこうぜというノリ)
20時に再度会場へ向かう。すると20名以上のイタリア人中年男女が集まってきて歓談をしている。私たち日本人の訪問を聞きつけて関係者たちが集まってきたそうだ。テラスに大きなテーブルが並び、奥の部屋ではプロの職人がピッツアをせっせと焼いている。主人の妻たちは料理をテラスに次から次へと運び出す。私たちは料理を待つ間、近所のトマト畑に案内された。まだピッツアにありつけない。国際交流には手間ひまかかる。しかも案内されたのは何の変哲もない、家庭菜園規模の農園であったが、彼らの契約農家のひとつであるらしい。日本からはるばる来た我々へのサービスのつもりだったのだろう。
さて、待望の夕食セミナー。と思ったが、セミナーはなく日伊交流のピッツァパーティーが始まった。固い話はなし。「サルーテ」(乾杯)「ヴォ−ノ」(おいしい)の連発。プロが釜で焼いたピッツァはシンプルな味でトマト風味が効いてとってもおいしい。焼きたてなのでいうことなし。トマト工場の社長たちに日本のトマトの話をした。彼らも日本には大変興味をもっており、日本へもプチトマトの缶詰製品を輸出しているとの話も出た。「日本のトマトを語るなら桃太郎ですよ」というと、彼らは大変興味をもったらしくそんなおいしい日本のトマトは知らないと詳細を知りたがる。つたない言葉どおしで、大量のピッツア、サラダ、パスタ、ワインをわいわいいいながらいただく。もうおなかもはちきれる。ツアーの最初から参加している仲間によると、連日このペースで、現地の人たちとの夕食は毎日3時間か4時間は続くのだという。その間、ずっと食べ続けているらしい。日本では考えられない。
最初この長丁場に驚いた私も、イタリア滞在中にはすっかり慣れた。昼も夜も食事にはまず必ずワインが欠かせない。ワインがあれば会話も滑らかに。そして出てくる料理の一品一品をかみしめ、それを話題として時間を楽しむ。当然笑い声も絶えない。

豊かな食って何だろう。豊かな人生と関係が深そうだ。
イタリアの食のツアーということで、さまざまな視察先へ赴いたが、ふりかえって思うのは、「食」の豊かさとは楽しい食事時間の共有であり、それが今の日本には悲しいかな少なくなっている気がしてならない。イタリアにもパリにもコンビニエンスストアはない。
あるのはリストランテであり、ピッツェリアであり、ビストロであり、カフェである。そこには「人」がいて「食」があって、おしゃべりがあって、音楽がある。時の経つのを忘れて楽しいときを過ごす。改めて豊かとは何かと考えさせられる数日であった。
便利が最高の価値なのであろうか。いや、心の充実、充足が最大の価値ではないだろうか。
ミールソリューションを考える場合、人々の生活にもっとも密着した「食」なのだからこそ人々が生きるための「餌」ではなく、心の充足を満たすことを何よりも優先して考えていくべきだと思った。ファーストフードもいいけど、スローフードがいい。どこかの食品メーカーの提案にそんなフレーズがあったが、イタリアにきて本当に実感した。
最後に、生まれてはじめてのROMA。20世紀最後の年にここを訪問できたことを幸せに思う。ここには20世紀という短い単位の時間ではなく、2000年の、人類の歴史という時間がゆっくり流れている。正真正銘の歴史的なメトロポリタンである。この記念すべき時に人間にもっとも大切な「食」の有難さについて省みる機会を与えられたことに心から感謝したい。
美味しくいただき、楽しい時間を。その日々の積み重ねが人生の大きな喜びとなるのだろう。改めてイタリアにGRAZE!