寒い日はなぜか劇場や映画館へ足を運びたくなる。凍てつく心を温めたいからなのか。おかげさまで貧乏暇なしの生活を送っているが、無性に『あ、あれ観たい』と思い立つと徹夜で仕事を片づけて、平日の朝、映画館へ向かうことさえある。会社員時代はできなかった最高の贅沢だ。あの頃、どれほど平日のすいている時間に映画を観たいと思ったことか。こんなささやかな願いが叶っただけでも、会社を辞めて良かったと感じている小心者である。さて、今年は本当によく劇場へ出かけている。映画はビデオの普及で家庭で手軽にいつでも楽しめるようになったといっても、あの大画面の迫力と魅力には勝てやしない。

その1 韓国で初めて観た日本映画
1月にSEOULへ出かけた。日韓文化交流が解放され、日本の映画も韓国で堂々と観られるようになった。(といっても作品は厳選されるが)今回は、せっかくなので韓国の映画館で日本の映画を観てみることに。今、日本でも増えつつあるCINEMA COMPLEXが韓国でも人気だ。ショッピングセンターやレストランが併設されたひとつの建物の中に複数の映画館があり、買い物や食事の合間に空き時間を利用して好きな映画が観られるというものだ。ここへ来てから何を観るか選べるというのもうれしいし、映画館にとっても人気の高い映画を複数のホールで上映することにより観客を呼べるし、双方にとってメリットの高いシステムである。そしてこのシネマコンプレックスでは、いつもポップコーンの香りがしてちょっとしたハレの空間である。さて、今回観たのは中山美穂主演の『ラブレター』。わざわざ日本の映画を観るために、ソウルから約1時間電車を乗り継いで仁川(インチョン)という町までやってきた。ソウルではもう上映期間を過ぎていたためだ。そう、東京で見過ごした映画を追いかけて川崎か横須賀へ行くという感じだ。(本題からそれるがこのCINEMA COMPLEXにはかのカルフールが入っており、映画の合間にウォッチングが楽しめた)
さて、日本の映画に客が本当に入っているのだろうか。どんな人が観にくるのか。私はそんなことばかりが気になっていた。
開演時刻が近づく。その日は土曜の午後。10〜20代の女子グループ、カップルで席は埋まった。満席ではないが8〜9割。
生まれて初めてスクリーンにハングル字幕が出る日本映画を鑑賞。映画は『お元気ですか?』で始まる静かな静かな恋愛物語。『雪』と『手紙』と『別れ』がやけに哀しい深い映画だった。久しぶりに日本映画を観て、『こんないい作品があったとは』と思った次第だ。映画が終わって静かに涙を拭く女性もちらほら。ああ、韓国の男女にもきっと響いたのだ。日本人としてとってもうれしい瞬間であった。こういう名作を鑑賞して、身近に日本の文化を好きになってもらえたら…。政府レベルでの文化解放といっても所詮は庶民レベルの解放がなければ真の交流はあり得ない。今、Y2kという日本人と韓国人で結成されたグループも韓国で爆発的な人気らしい。新しい文化は若者から生まれてほしい。それから、私はこの映画を日本ではきっと観なかった。韓国で観たから一生忘れない映画になった。これもおもしろい。人間の行為にはすべてシーンが大切なのだ。それが人生の付加価値を高めることもある。

その2 日本で観た最高の韓国映画
もともと映画は好きである。しかし、こんなに感動した映画は稀だ。すでにごらんになった方も多いかもしれないが『シュリ』という韓国映画だ。東西冷戦構造の崩壊後、南北分断という民族的悲劇が続き、今もなお緊張関係にある韓国と北朝鮮との政治状況を背景に、北の工作員女性と韓国の諜報部員との愛と闘いを描いたサスペンスアクション映画で、韓国ではすでに空前の大ヒットとなった作品である。北と南という複雑で悲劇的な政治背景をもつ韓国人ならば、きっとこれを観て大変複雑な感情をもったのではないだろうか。この映画は人間の本質を突く、深いメッセージをもっている。人は公人である前に私人になれるか。もしくは私人である前に公人としてしか生きられないのか。しかもどれほど愛していてもその相手が自分の敵であり、自分は相手を抹殺しなければならないという任務であった場合果たして…。また、同じ民族でなぜ憎しみ合わねばならないのか…。このストーリーは2002年のワールドカップを舞台にクライマックスを迎える。最後、男と女は銃を向け合う。そして男は女をやむなく撃つ。女は瞬間的に銃先を男から外す。女には男を撃つことはできなかった。そして北の工作員は死ぬ。・・・・・・・ストーリーも見事であるが、迫力ある北の特殊部隊の戦闘訓練から、一瞬にして韓国の人命を奪ってしまう液体爆弾の恐怖。CGによる特殊効果・・・・。観る人を釘付けにする材料が山盛りである。悲哀のストーリーがあますことなくダイナミックに表現されている。映画で観ているようなことが、もしかしたら形を変えて現実にあるのかもしれない…とさえ思える。
日本人は本当に幸せな民族である。少なくとも同じ民族同士なのに憎しみ合ったり、殺し合ったりということはない。韓国という国の深い悲しみをこの映画は伝えている。銀座で観たこの映画、日本在住の韓国人の方も多かった。すすり泣きが聞こえた。(私も泣いた)そう、大いに泣けるのが映画館で観る『映画』なのである。

韓国文化院へ久しぶりに伺った。日韓の漫画家たちによる「年賀状交流展」というイベントを開催していた。文化官の方の話によると、日韓交流のイベントは年々増えており、日韓の両国では毎日のように何かしら行われているそうだ。そういえば友人の画家も、日韓交流展というグループ展に出展したと話していた。いろんな作品を通じて、ツール、メディアを通じて、もっともっと理解し合いたい。感動を分かち合いたい。さて、私、2000年はこれらを皮切りに、仕事の合間を縫って『ひとり感動ツアー』を実行している。すばらしい出会いと感動。これは自ら出かけなければ何も得られない。2000年も感動を追いかける旅に夢中のようだ。