老眼との新たなつきあい方。それはルーペをもつこと。
眼鏡ではなく、あえてルーペを。しかもセンスがキラリ光るもの。
手にとって、覗く瞬間の「わくわく感」がたまらない。
レンズを通して視る行為は、少年時代の探究心を蘇らせる。

 店先にルーペが並んでいると、紳士たちは「おー、これいいねえ」とひとつひとつ手にとって、嬉しそうに覗き込む。
レンズの先の世界が拡大されると、「お、見えた見えた」と再び笑みが生まれる。なぜ、紳士たちは、ルーペがお好きなのか。小学生時代に、炎天下の運動場で、白い紙に太陽光を集めて紙が燃えるのを面白がったあの興奮や、或いは、なぜか会ったこともない、あの昆虫記のファーブル博士の少年時代が浮かんでくる。
男たちは、元来「覗く」ことが好きなのか。そう、男の永遠の好奇心・探究心をくすぐるのが、このルーペである。
 ルーペの起源をたどっていくと、「レンズ」の歴史にいきつく。最初のレンズとは紀元前七百年頃のニネヴァの遺跡より発見されたものとされているが、もともとは太陽熱を集めるための道具であったらしい。その後、古代ローマの暴君ネロ皇帝が、闘技場で剣闘士の戦いを観戦するのにエメラルドのレンズを用いたとか。但し観るためではなく、まぶしい光線から目を守るものだったとか。
その後、「見るレンズ」が生まれたのは、13世紀の半ばドイツの修道士によって石英や水晶の平凸半球型のレンズが発見されたことにはじまる。これが物体を拡大して見る現在の拡大鏡のルーツであったといわれる。当時は、本の上に直接載せて使用するものだったそうだ。
メガネが発明されたのも、同時期であったとされているが、もともとレンズを通して世界を見るというのは、裸眼で見える世界を創っ
た神への冒_として、社会的な非難もあったようであるが、いずれにせよ、「もっとよく視たい、知りたい」といった人間の永遠なる
探究的欲求が「視るための道具」を普及させ、ルーペは、知識人たちの書斎に不可欠な道具として愛用されてきた。
メガネは身に付け使うもの(最近ではファッションの一部になっている)、一方、ルーペは書斎机の引き出しに忍ばせ、視たいときにすぐぐに取り出せる道具として、書斎人には不可欠なアイテムである。また、見たいときにポケットからさっと取り出せ、すっと覗ける携帯ルーペも大変スマートでモダンである。
 ルーペは見た目も楽しいのがよい。色や形は好みで選びたい。ベネチアングラスのものは繊細で美しく、ドイツ製のものはシンプルで知性を感じる。また持ち手に装飾を施したタイプも個性があって、選ぶのが楽しい。
少年時代の好奇心をもう一度。毎日新たな発見に出会うため、ルーペはおとなの必須アイテムである。