さて、名刺をはじめて持つのは社会人になってからである。
最近では、学生やフリーターと呼ばれる人でもマイ名刺と呼ばれるものをもっていることが多い。お友達に会うときにも交換したりするそうだ。しかし、私の時代?の場合、正統派。22歳、会社員になったとき、はじめて総務部長か担当の係長だったか忘れたが、とにかく名刺が100枚入ったプラスチック箱を手渡されたときは、いたく感動したものだ。自分の名前が印字されているものは、当時、学生時代までにはあまりお目にかからない。小学校時代に使った名前のゴム印などは記憶にあるが、自分の名前が入った印刷物はあまり目にしたことがない。しかも「私はこういうものです」と偉そうに差し出すものがあるというのは、かっこいい。一人前になった気分である。名刺とは、物心ついた最初のアイデンティティーツールなのかもしれない。
さて、その名刺には年月とともに肩書きなぞが付いていく特長がある。ヒラ社員、主任、係長…まあ、何年かするとそんな文字がついていくのであるが、係長時代の名刺はなんとなくはずかしい感じがした。それは、今でも思い出すと笑ってしまうが、図書係とか給食係とか呼んだ小学校時代の係を思い出し、係長ってなんだか可愛いと思っていたのであるが、これがビジネスライクに受け取るとあんまり格好良くない。これは、名刺における係長のイメージである。しかし、私の初代の上司は、「会社員は万年係長が最高さ。残業代もつくし、気が楽で」と、昭和40年代初頭の植木等?のようなことをいっていた。今も名刺のことを思い出すと彼のことが思い起こされるが、あんなバブリーな会社員は今の「痛み」到来の時代にはいないだろう…。
話を戻す。その後、私の名刺は肩書きで表現するのが、どうもクリエイティブではないように思え、勝手に「これからは役職の時代ではなく、職種の時代ですから」とかいって、マーケティングディレクターとか、プランニングディレクターとして自らを名乗り、部下たちにもそういう表現を普及していた。そして、私は名刺とは会社が作ってくれるものと12年思い込んでいた。
しかし、会社員を卒業し、独立を決意した3年前。「あ、名刺を作らねば」。これが意外と大仕事。なぜならば、名刺はアイデンティティーツール。在職した会社のではなく、私自身のイメージを伝えるものでなければならない。一生、使えるものにしなくてはならない。…そして、観覧車が私のコミュニケーションシンボルとなり、それを入れた名刺をデザイン、印刷。印刷会社にいたのに、マイ名刺を作ったのははじめての体験。そこになんと入れるか。ありきたりの職種は嫌だな。そして、「コミュニケーションクリエイター」と名乗ることに決定。まあ、自分ひとりのことを決めるのは自由だし、楽しい。しかし自分への責任がある。何をするにも人のせいにはできない。名刺1枚も必死。私は季節によって名刺の色を変えることにした。夏はスカイブルー、秋、冬はホットオレンジ、春はライトグリーンである。また、今日はがんばってアプローチしたいときは、そのときの気分で色を変えることもある。
さてさて、今回は名刺の話である。
この3年間に、私は複数の名刺を作った。また作っていただいた。自分のオフィスの名前の入ったいわばオリジナル。そして契約している企業の名刺。マーケティング組織の理事名刺。一番うれしいのはピアニストの名刺。立ち上げたプロジェクトの名刺…。名刺の数だけ顔をたくさんもっているようで、なんだか楽しい気分になるが、それだけ責任と自覚も増えている・・・。
人に出会うことが多いせいか、名刺が増えるのは速い。すぐに整理すればよいのであるが、これがなかなか…。人それぞれ整理方法は異なるが、私の場合は、コンランショップでみつけた細長いポケットファイルに保存している。しかし、どんどん数が増えるにつれ、そのファイルも数が増え、そこに入りきらない名刺たちが、別の引き出しに入っていたりする。ああ、半日あったら整理するのに…と思いながら、無造作にしまいこんであったり、積み上げてあったりする。そして、たまに年に1、2回。過去の名刺を見ても、顔も出会った場所、時間すら思い出せない人の名刺は破棄する。しかし、この数は少ない。増える一方。中国人の名刺をいただくことも多いが、この名前を覚えるのは大変。字が似たり寄ったりで、覚えが悪い。
海外のホテルに泊まったとき、「Please give me your business card」といわれて、改めて名刺はビジネスに使うものなのだと認識。お客さまに名刺をもらい、DMを送る。基本的な行為であるが、名刺をいただくということは本来簡単そうで、難しいことかもしれない。
今までいただいた名刺で、今でも忘れられない1枚がある。それは、あのピアジェの会長自らの名刺である。ベルギーでの会議での出会いであった。あんな高名な紳士から名刺をいただけるのは、ピアジェの時計を買うことより意味がある。先方が渡したことなど忘れてしまう、ちっぽけな私でも、天の上の方からの名刺は励みとなり意欲となる。
話が前後した。名刺交換をするということは、とても大切なビジネスステップである。しかし、どうもすべてを上手く使いこなせていないのが現状である。もっと知恵を使ってこの名刺を活用すれば、ビジネスはうまくいくだろうに…。そう思いながら、暑中見舞いの返事を書くことに必死な私。これまで名刺交換をした方皆さんに、記憶される人になれるよう、がんばらねば。
最後にアイデア! 名刺にナンバリングをしたら面白い。
「あなたが私にとって名刺交換10000人目の方です」こんな名刺は出会いからハッピーコミュニケーションになるだろう。
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