「名刺」をもつのは現役時代まで。そんな常識が今、変わりつつある。
社名やロゴの入ったものだけが「名刺」なのではなく、
自分の個性を表現する「マイ名刺」がこれからの社交には必需品。
そこから新しい出会いが生まれ、楽しいおつきあいも始まる。

 社会人になったとき、会社から「名刺」を支給され、自分が一人前になったような気がした…そんな記憶がある。そして主任・係長・課長・部長…と昇進するごとにその肩書きが変わり、背筋がピーンと伸びた人はいないだろうか。
なぜか商談とは無縁の夜の世界でも、会社の「名刺」を渡している人を時々見かけるが、「名刺」とはまさに日本のビジネスマンたちの永遠なるアイデンティティツールである。「私、こういう者です」これが初対面のご挨拶。著名な会社であればあるほど、「名刺」を差し出すのは誇らしい。それに憧れ就職先を決める若者がいても不思議ではない。
 約40年、この「名刺」とともに仕事をしてきた企業戦士にとって、それを持たなくなる日の到来はどうも想像しがたいもののようだ。とある50代後半の紳士。会社の「名刺」を差し出し「もうすぐ『名刺』がなくなって、ただの人になってしまうんです」と寂しげに話される。また、定年を迎えられた紳士。「もう『名刺』もないんですよ。」少し恥ずかしそうにおっしゃる。
「名刺」とは現役の組織人間のみがもつ特権か? 否、そんなことはない。「名刺」を最初に使った人は…紀元前3世紀頃前漢の初代皇帝劉邦で、妻をめとる際、その相手の親に面会するときに使用したという説や、7〜8世紀の唐時代、客人を訪ね、相手が不在のときに置いて帰ったという話もある。会えなかった、会いたい相手への意思表示に「訪問の証し」に使われたというわけだ。
一方、欧米では印刷先進国ドイツで16世紀にはじまり、その後広がったという説、さらにアメリカでは19世紀南北戦争後の社交用に用いられたらしい。
そしてわが国では19世紀半ばの日米修好条約締結の際、日本の奉行がアメリカ側に渡したのが始まり。そのときは和紙に墨で書かれたものだったそうな。その後「名刺」がさかんに使われるようになったのは、明治の鹿鳴館時代の社交用から…等の諸説がある。
いずれにしても、社交用でありビジネス以外の場面にも活用されたようである。ちなみに英語ではVisiting Card,Calling card,Business cardの意味でありName card とはいわないそうだ。
 最近、趣味や特技を表現したオリジナルの「個人名刺」をもつ人が増えている。音楽であったり、釣りであったり、自称○○研究家であったり、××愛好家であったり。現役を離れても、すべきことがたくさんある大人にとっては、名刺は必需品である。
できれば、ほかの人にはまね出来ない発想で、「おっ!面白いですねえ」なんて言われると初対面でも話が弾む。自分のプライベート肩書きを考えるのも楽しく、またデザインや色、紙に凝ってみるのもよい。自分のロゴマークを入れてみるのもよい。いずれにしても、その1枚で「私」の個性が充分表現できるように、知恵を絞りセンスを光らせてみたい。
新たな人との出会い、世界を求め続ける人には「名刺」は必需品。そして、おしゃれな名刺入れにそっと偲ばせ、さっと取り出してみよう。
こんな小さな変化から、毎日がもっと楽しく、心踊るものになる。