NYミッドタウンにあるカーネギーホール。世界中の名音楽家たちの桧舞台と呼ばれているステージである。クラッシックのみならず、ジャズ、民族音楽……各ジャンルの第一級の音楽家たちが集まってくる。私も子供の頃から、アメリカのカーネギーホールといえば、夢のまた夢の存在であり、はじめてNYを訪れ、この建物の前に立ったときには胸が高鳴ったことを覚えている。いつか自分も、とその夢はどれだけお金を積んでも叶いっこないが、夢は夢で置いといて、NYへ少なくとも年1回、最近では3〜4回訪れる理由のひとつはカーネギー鑑賞のためである。これまでいろんな演奏家たちのコンサートを聴いた。残念ながら日本ではクラッシック音楽の鑑賞にお金がかかりすぎ、京都時代に京都市交響楽団の定期演奏会に「学生券」(当時1200円か1500円)を利用していたぐらいで、あとにはN響や海外のオーケストラだといっても指折り数えるほど(しかもチケットをもらったとかそういうきっかけ)である。しかし欧米にでかけるとさすが本場である。20ドル以下で一流プレイヤーの演奏が聴けたりする。私はいつも4階のほぼ天井に近いところの席を買う。知らない演奏家の場合、正直「外れ」もあるからだ。私の場合、最高の場所で聴きたいというよりは、いろんなものを知りたい、聴きたいという欲求が高いため、海外に出ているときは、安いチケットでクラッシック、ミュージカル、ジャズと毎晩連続で聴きにいくことも少なくない。一人旅のナイトタイムもなかなかである。これまでには、日本で聴いたら高価すぎるヨーヨーマやホセカルロスなど超有名なアーチストたちの生演奏を聴かせていただいたこともある。音楽がとても身近に感じられたのはプライスのせいだろうか。
さて、前置きが長くなった。せっかく海外の一流のコンサートホールに来たのであるから黙って静かに聴いていればよいのであるが、今回は事情が違った。今日の催しは日曜のマチネのようなもので、夕方ではなく午後からの上演。アメリカのローカルオーケストラの演奏だった。演奏がはじまって私は何かおかしいと感じた。
これまでカーネギーホール含め、他の会場で聞いた多くの演奏よりも、どこかバラバラな、頼りないハーモニーなのだ。たまたま聴いたことのない、また作曲者も知らない前衛的な曲であったため馴染みがないという点もあったと思うが、それにしても、首をかしげたくなるような微妙な不協和音を感じた。それは指揮者の背中に象徴されていた。指揮者は一生懸命にタクトを振って全身を使って表現しているのだが、そのアクションとそこから出てくる音がどうも合っていない。
振りの大きさのわりに音のインパクトがなく、もわ〜っ、ふんわ〜っとしているのだ。びしっと決まらない。そのため聴いていてもどこかしら心地悪い。そういえば、途中で席を立って帰る客も出てきた。その気持ちわかるな〜。でも立ったら可愛そう……。そんな気持ちになった。楽章の合間に、指揮者は汗を拭いていた。きっとものすごく緊張されているのだろう。とにかく一生懸命であった。とにかく少しずれながら、びしっと決まらないまま、ようやくその交響曲はエピローグへと向かい、ようやく終わった。
いつものカーネギーホールよりも拍手が少ない。他のお客さんも私と一緒の気持ちだった?
我慢して聴いている演奏会ほど苦痛なものはない。宝くじにはずれたような感じ。いや違う?
その前日、リンカーンセンターで、ガーシュウィンの黒人オペラを聴いたのだが、そのときは曲は終わるたびに、待ちきれないといわんばかりの拍手が会場を埋めた。鳥肌が立つ瞬間もあった。それに比べてはいけないが、どうも盛り上がりに欠けた……。
さて、私はこの苦痛の時間、ずっと指揮者の背中を見ていた。まず、指揮者という職業ほど人様に「自分の背中」を見せる仕事はない、改めて「大変な仕事だな」と思った。このたびウィーンフィルの指揮者に就任したSEIJIOZAWAや、憧れのカラヤン、フルトベングラー、そして先日亡くなられた朝比奈隆……。皆、いい背中をしていた。そう指揮っぷりがいいというか、ずばり視覚的にもカッコいい後姿。あと、小林健一郎や井上さんもかっこいい。頼れる男の背中なのである。そんなことをこの当人たちは意識しているとは思えないが……。
私はバレリーナやダンサー、俳優さんの姿勢を常々素晴らしいと思っている。彼女らの背中はびしっと伸びている。これは大切なことである。背中がまっすぐだと声も伸びるし、美しい。そして安心感、安定感がある。
経営者は指揮者だと思う。もちろん社長でなくとも課長もその課においては経営者と同じである。その人の背中がどうか。前を向いているとき、頼りがいがありそうと思っても背中を見て違う印象をもつことがある。
リーダーとは、統率力があるか、将来性があるか、安定感があるか。
リーダーは常に後ろから見られているのである。自分自身ではその背中は見えない。でも、人は後ろからついてくる。
オーケストラ、カーネギーの指揮者とは全く違うところへ話がいってしまったが、今回のコンサートを通じて、経営者の背中は極めて大事であることを再認識した。
あなたの背はすっかり伸びていますか?私は社長ではないが、でも、やっぱり気をつけたいと思った……。NYを歩くには背中がびしっとしていないと決まらないもの……。
「上を向いて歩こう」という名曲があったが、たまにはあの唄に合せて歩いてみるのも良いかもしれない。