ここ2年近くになろうか、1ヶ月の3分の1は東京にいない生活である。
台湾をはじめとする海外への出没、そして関西方面その他への出張。
「忙しいですね」とよく言われるが、自分でどんどんスケジュールを詰めていく癖がついてしまった。
山手線が新幹線、台湾行きは大阪行きという感覚である。日替わり出張も慣れた。出張貧乏ともいおうか、たまるのはお金ではなく、ポスト内の新聞ぐらいである。
世界のどこにいてもE-mailが使えるおかげで、普段どおりの業務もさして影響ない。(しかし、デザインの打ち合わせや感性的な内容のコミュニケーションはE-mailではまだ難しく、国際電話に頼るしかない)とはいえ、いくら支障がないとはいえ、海外に出かけるには事前の準備も大変で、徹夜で出かけることも少なくない。一睡もしないで始発の飛行機に乗り込み、台湾なんかだと午後1時からの会議に間に合ってしまう。夜まで仕事をして、ホテルにチェックインできるのは夜の20時、21時…。この長い1日の疲れを癒してくれるのは何か…それがホテルであることを実感するようになったのは、海外に出る機会が増えてからだ。人によれば、ホテルなんて眠るだけでいいのだから、余計なお金を使わず、なるべく安いところに…という人もいる。それもひとつの選択である。自分は、疲れれば疲れるほど、せめて出張先の居場所ぐらいはゆとりの空間に身を置きたい。少しお金を余計に使ってでも、疲れがとれるホテルを使いたい。と思うようになった。
そのきっかけにはこんなことがあった。
ある日、台湾での出張中の夜に風邪をひいた。珍しく悪寒がし、気分の悪い状態であった。しかしながら夜になって仕事先にこんな私用で迷惑もかけられない。そういえば、チェックインしたときに、スタッフからのグリーティングカードがあった。そこには日本人スタッフの名前がかいてあり、「何かお困りごとがあれば何なりとお申しつけください」とのメッセージ。あまりにも体調が悪かった私は思わず、記載している内線番号をダイヤルし、その担当者を呼んでいただいた。面識のない相手がTELに出る。何かご用件があれば…といってもまさかいってくる客はいないだろう…と思ってびっくりされたと思う。
「あの、すみません熱があって寒気がするのですが…」との言葉にその人は「少々お待ちください」と部屋までおいでいただき、ドア越しに症状をきいてくれた。そして、なんとその後、町の薬局まで薬を買いに行ってくれたのだ。その気持ちがうれしかったこともあって、体調も回復、おかげで翌日には元気に帰国することができた。それ以来、その方とはメールもやりとりし、時々はお会いしてお話したり食事をするまでになった。その人が時々日本へ帰国出張されるときもご連絡をいただく。
そして、私はいつしか自腹を切っても、そのホテルだけを利用するようになった。そして1年が経つ。
毎月泊まる外国人というせいか、ホテルのスタッフの多くも私のことを覚えてくれており、気軽に「はい、イマオさん Welcome to come
back!」と素晴らしい笑顔で迎えてくれる。
そこのマッサージスタッフは予約をしておくと、必ずといっていいほど、お菓子や飲み物を用意してくれ、差し入れてくれたりする。
とあるベルボーイは、交通事故でしばらく顔を見なかった。久しぶりに会って事情をきいた私がお見舞いに差し入れを渡すと、そのお返しといって、チェックアウトする際に台湾伝統の飲み物を手渡してくれた。また、驚くのは重い手荷物をもってもらったあとのチップを彼は受け取らない。「私はあなたの友達なので、いただけません」というようなことを英語でいう。
……いろいろある。いずれもココロにくいのである。
仕事柄、ホテルという業種には学ぶことが数多くある。サービス、おもてなしについて勉強したかったら、やはりそれなりの待遇を受けてみることと思う。
デフレの時代である。低価格のモノ、コトに話題が集中している。
デフレだ、何でも安くなってうれしい面がある。安いから同じ金額の中で、多様な消費ができる。安いからいっぱい買える。という価値観である。メーカーも流通も安くしなければ売れないと、とことん低価格競争に突入する。しかし、安いだけが本当の価値ではない。これを知っている生活者だって多いはずだ。
安く泊まることができても、快適でなければ意味がない。
やはり、対価を払うということは、それに見合った価値があるかどうかなのである。
私がそのホテルにお金を使って惜しいと思わないのは、それに見合う満足感を得られるからである。優れたサービスが提供できるホテルは個客満足を実現している。または「PS(Personal
Satisfaction)の追求」である。
消費によって、体験によって心もからだも癒されること。戦う戦士にとっては、いいホテル選びも大切な要素。いつしか、病院もホテルと同じく、快適で癒しの場になってくれることを願っている。
そう、ホテルとホスピタルは同じ語源からきているのだから…
人々はゲストとして大切に扱われることに、高い満足感を得ることができる。
さあ、世は連休である。旅行に出かける人々はどんなふうに宿を選ぶのか。ぜひ聞いてみたい。
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