先の号でも書いたが、「大人の男」をコアターゲットとしたニューコンセプト空間「銀座書斎倶楽部」をこの春に立ち上げる仕事に関わった。
OPEN直後は、大掛かりなPR活動をすることなしに、いくつかの新聞・雑誌に取り上げられ、業界からも注目をされた。
しかしながら、商品の販売のみならず、お客様との交流・コミュニケーションで新しい価値創造を目指す「このお店」は、実は小売業なのではなく、まさに銀座のBARや倶楽部と同じく「ハイレベルなサービス業」という点での気付きと現実とのギャップ、さらにこういったビジネスは資金的・時間的ゆとりがなければ成り立っていかないことの気付き……などなど現実の「運営」には苦労が絶えない……現状であるが、それでも最近、ちょっといい話がある。
それは、「大人の男」のための「LP鑑賞会」なる企画である。
この店の主人がもともと音楽好きであるということもあるが、この書斎倶楽部開設時から、「五感」で楽しめる空間、ひいては音楽にもこだわりたいとの思いで、学生時代に作ったらしい真空管アンプを持ち込んだり、スピーカー職人を探して信州まで出かけていったり……そんなこんなで徐々に「渋い音楽鑑賞の場」が整いつつあった。
私も自宅から電気ピアノを店に持ち込み生演奏をしたり、店のGBM用に世界中で探してきたCDを店に置いたり……そんなことをしてきたが、この店に集まってこられる作家さんお客さんに「LPをみんなで聴くのはどうか」と話をしたら、おもしろがってくださったので、「やっぱり始めますか」的な自然な雰囲気ではじまったのがきっかけである。
8月からはじまったこの小サロン。数名参加のアットホームな会。参加者は自宅に眠っている、あるいは聴いてみたいLPレコードを持参するのが一応のルール。もちろんギャラリーも歓迎である。最初は、人それぞれ音楽の趣味が違うので、ジャンルによって分けてはどうかという話もあったが、意外や意外、参加者が違うジャンルのLPを持参されることで、普段聴かない、またこれからもきっと選んで耳にすることのない音に出会うことができる。……また、LPを持参されるお客さんは、その1枚についての思い出やうんちくをお持ちで、その「語り」がとてもおもしろく、聞きほれてしまう。
その音楽を選んできた理由、その時代のこと、その頃の自分自身について……
はじめて出会った人どうしが、LPというアナログなメディアを通して、あたたかいひとときをともに体験できる……。
もっとマニアックな会にすることもできようが、この倶楽部のイベントの主旨としては、いろんな音楽あり、いろんな人どうしのふれあいあり……というところが意味があるのだと思っている。
当鑑賞会常連の作家Mさんは、毎回、その会の様子を1枚の絵にして、インターネットで発表し、また原画を店に持ち込んでくださる。店内に掲げられた1枚の絵が、店のライブでハートフルなインテリアとして、来店される方をあたたかく見守ってくれている。ありがたいことである。
実は、私はLPを1枚ももっていないし、ピアノを弾き、歌も好きだが、機材には詳しくないし、興味もない。ただ、この会が始まってから、神楽坂の中古レコード屋に通うようになり、毎月LPを探すのが愉しみになってきており、最近では、そこの主人に時々リクエストをお願いすることもある。
(その店は、なかなかの品揃えで、ご主人のお人柄が素晴らしい、おすすめのお店である。)
先日は、「男前シリーズ」と勝手に称して、私の中で代表する「大人の男」LPを買い集め、持参した。アランドロン、イブモンタン、ピエールバルーである。
会場のおじたちからは、羨望? ひやかし? もあったが、みんなで目を閉じて、「いいねえ」といいいながら、「太陽がいっぱい」を鑑賞した。
先日、このイベントの件を日刊ゲンダイでとりあげていただいた。その後、問い合わせが続いており、参加申し込みも出始めている。また新たな出会いがありそうである。
10月29日4回目のテーマは「枯葉」。だそうで、ホステスの私めはまたLPレコード屋通いをする……。
そして来月は「クリスマス特集」。いろんな「ホワイトクリスマス」が飛び出すのであろう。
このように、お客様が参加し、楽しんでくださる場づくりは、なかなか利益にダイレクトに結び付けにくい面もあるが、この方向が、次代のビジネスチャンスになっていくことを予感している今日このごろである。
「現役でもない俺の話をこうやって聞いてくれる場は、そうそうないもんね」と元飛行機技術屋だった常連さんの生の声。
毎月、貴重な1枚をお持ちいただき、趣あるうんちくを語ってくださる。いきいきと話されるその姿に、「書斎倶楽部」というステージが何かお客様にお役に立っていることを実感し、うれしく思う。
こだわりのある男、話していて楽しい男、勉強になる男……そんな人が私にとって「大人の男」かなと最近思っている。
ところで、そろそろ「大人の女」もどうにかしないといけないと……思っているNYのケネディ空港。冬のソナタに騒ぐおばさんがそれ……ではないことを願っている。
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