台湾で仕事をするようになってからか、日常的に海外の方とのコミュニケーションの機会が増えた。もちろん、それより以前に出会った人々もいるが、積極的におつきあいをしよう、ともに何かをしようと思って働きかけるようになったのは、会社員をやめて、身も心もフリーになってからのようである。
 台湾出身のANNEさんは、今、ご主人の仕事のため、上海に駐在している。お手伝いさんを雇って、子育てをしながら、アートディレクターの仕事をしている。彼女とはじめて出会ったのは、マーケティングの国際会議の席上であった。彼女は日本での留学の経験もあり、日本語が非常に堪能。自分より上手いと思うことがある。台湾のビジネスマンたちの通訳として国際会議に参加していた。そこではじめて知り合った。人の出会いとは、不思議なもので、最初の出会いのときに、勢いで親交が深まることもあるが、2、3度のきっかけを経て、自然に深まっていくこともある。ANNEさんとは後者であった。何年かごとに行なわれる会議の席上でお会いするうちに、お互いになんとなく、心ひかれるようになり、私たちは個人的に上海で会う約束をすることになる。
そのきっかけになったのが「DRAGON WORLD」である。

これは、彼女が生み出したアートブランドである。彼女は、もともとアーチストである。常に台湾、上海、香港そして日本、NYを巡り、中国人としての自我をアートとして表現したいと常々考えていた彼女が創造したこのブランドがこれである。中国の伝統的な小道具を素材として、それを現代的なフレームアートとして表現した作品の総称である。そして、それは大衆的な価格で手に入れることができ、現代の生活の中で、身近に触れ合うことができる作品である。大大陸、中国文化の伝統と現代の融合を彼女は、彼女独自のセンスで表現した。そして、昨年、上海市内のホテル内にショップをもち、自らの作品とともに、同じコンセプトをもつ服飾雑貨品も合わせて、展示販売することを、仲間たちとともにはじめた。
そのビジネスを始めるにあたって相談を受けたのが、私たちの個人的な再会のきっかけであった。
「この作品を作ってビジネスにしようと思うがどうだろうか?」作品のカタログと上手い日本語で書かれた手紙が上海から送られてきた。私は、これまで彼女を通訳者としてしか知りえなかったが、その素晴らしい才能と、その「DRAGON WORLD」という発想と、それをビジネスにしようとする意志に心動かされた。

私はすぐに彼女に会うために、上海へ飛んだ。そして、実際に彼女が創造したこの「DRAGON WORLD」の空間に触れたとき、これは日本人の感性にもフィットすると直感し、また何らかの形でお手伝いをしたい…と思うようになった。
そして、今年5月。私は、彼女の日本でのはじめての作品展を銀座で行なった。知り合いの文具屋の店内に作ったギャラリーを借りてのミニ展示会である。規模は小さかったが、今回の企画は、私にとってもはじめての試みであった。
まず、作品展を実際に行なうということ。実は今年の正月に上海へ行った際に額に入った作品をいくつか持参して帰ってきた。額に入った作品は、価格に関係なく、輸送に不便な代物である。割れる心配がある。それは展示期間の最後までつきまとう大問題であった。やってみてはじめてわかったことである。気軽に宅急便では送ることもできず、手持ちやタクシー、知り合いの車での輸送であった。
また、展示点数が少ないと追加で上海からDHLで送ってもらった場合も約半分が破損、知り合いのデザイナーに修理していただいたり、またその梱包状態が悪いと、展示前にどうなることか…という周囲をハラハラさせるという事態もおきた。とにかく、すべてが初めてのことで予想されない事態がおきたのだ。いかに、美術館や博物館で展示される作品に巨大な保険金がかけられているかもなるほど! と思ったくらいだ。しかしながら、スタッフ関係者の皆さんのご尽力により、なんとか展示会が実現した。
お客さまからも好評で、作品のいくつかも販売でき、同時企画として開催した上海のシルク小物展も好調、いくらかの商品が世に出て行った。そして、ANNEさんが、それを見るために来日した。私たちは銀座で再会した。5ヶ月ぶりである。そして彼女は「本当にやってくれて、ありがとう。あなたに頼んでよかった」と喜んでくれた。また、せっかくの彼女の来日と展示会の開催を記念して、ささやかな食事会を開催した。そして仲間が集ってくれた。彼女は喜んで帰国した。
彼女が提唱する「DRAGON WORLD」とは21世紀は、中国パワーがはじける時代、そして彼女と同じコンセプトをもつアーチスト集団、仲間をも意味する。そして実際、北京でオリンピックが開催されることも、最近決まった。まちがいなく21世紀は全世界が「DRAGON WORLD」になるのではないかと予測できる。私は、彼女の素晴らしいセンスを日本市場へもっと広げることを今後とも応援したいと思っている。それはマイビジネスとしてだけではなく、自分の世界を広げ、磨くために必要だからである。
今回の経験で学んだこと。出会いは次の新しい出会いをもたらすということ。
思いつきで行動を起こしてしまったことであるが、場所を提供してくださった方、手伝ってくださった方、集まってくださった方……に今でも思い出すと頭が下がる…改めて心よりお礼を申し上げたい。
ANNEさん、また新しい作品できたら見せてください。そして、私たちにはないDRAGON WORLDを教えてください。