昨年までのイタリアンレストランでの演奏を卒業して、今年からは新たな活動。
たまたま知り合いの母上が京都の特別養護老人ホームにおられる。その娘さんが仕事の休みにそこを訪問され、音楽療法の先生は来られるけれど・・きてくれたらうれしいなあとのお声をいただき、以前、音楽療法をほんの少し学びはじめた私としては、いい経験になるとふたつ返事。さっそく、京都の出張に絡めて、そこを訪問することに決めた。
京都といえば、私の第二のふるさと。しかもその施設は学生時代を過ごした町に近く、そこを訪れるだけでも20年前の思い出がいっぱい。甘酸っぱい思い出の道をたどって、その施設を訪ねるのもいつしか楽しみになりつつある。
最初の訪問時のこと。老人ホームは仕事の取材で訪れたきり・・・。高齢化社会とはいうものの、現実的に自分には遠い存在でもあった。
京都市北区の奥地にある、その施設。タクシーで向かいながら、どんな演奏をすればよいのか、もししらけてしまったらどうしようか?などなど不安いっぱいで向かう。
そこに到着、すると施設では「今日はコンサート」ということになっており、皆さん2階のリビングルームにすでに集合されている。車椅子に乗っている方、杖をついている方、おじいさんもおばあさんも・・・細かく数えてはいなかったが、数十名の方がおられたのでは? そこにおいてあったのは、私が小学生時代に使っていたのと同じ型のエレクトーン。その楽器を取り囲み、皆さんが腰掛けて、今か今かと待っておられる。すっかり注目を浴び、エレクトーンの音を調整しながら、「いやー、こんな雰囲気か。どうしよう。何から弾こうか〜〜」とドキドキハラハラ。でも、それ自体も見られているので、すでにステージは始まっているようなもの。「みなさーん。こんにちは。お元気ですか? 今日は、皆さんと楽しいひとときを過ごしたいと思いますので、一生懸命聞いてくださいねー」と、いきなり元気印のご挨拶。意味が理解でき、ぱちぱち拍手するのはよほど元気なおばあさん。多くは「シーン」と無言。それにもくじけずに、演奏開始。以前、少し習った音楽療法によると、「その方が元気に活動されていたあの時代を想起させるような曲がよい」「暗いものではなく、とにかく明るい曲を」。ということがずっと脳裏にやきついていた。覚えている限りの懐メロを順番に弾いていく。
弾いているだけでは盛り上がらないので、大声で歌いながら演奏、さらにそれでも足りなくて手拍子も加えて・・・。次の曲を探すときも、つなぎのトークをしながら場もたせ・・・。次から次へと出てくる曲に皆さんの様子が変化する。おじいさんおばあさんがリズムに合わせて、手拍子・・。よし、だんだん盛り上がってきた。次に「瀬戸の花嫁」を弾き始めたら、立ち上がって泣き出すおばあさんが・・。ううう・・でも、ここでとめてはいけない。この方にとってこの曲は思い出の曲なのだ。さらに「リクエストありませんか?」「せんせ、愛染かつら弾いて〜」「う。あんまり知らんけど、こんな感じかな〜〜」おそるおそる弾いてみる、皆さんの歌声が響き渡る。「はい、今日は、夏休みなので盆踊りの曲を弾いてみますよ〜。皆さんご存知でしょうか?」と○○音頭をメドレーで弾く。すると、さっきまで、硬直状態で坐っていたおじいさんが動き始めた。前のめりになって手拍子、さらには歌に合わせて「もっといけ、それゆけ」と合いの手を・・・。すると「いつも話さない、あのおじいさんが、生き返った?」と周囲が驚く。もちろん手拍子もなく、ずっと遠くから見ているおじいさんやおばあさんもおられたが、ほとんどの方が演奏に反応し、笑い、泣き、手を叩き、心で踊った。汗びっしょりで1時間半。じっと私の行動を見ていたおばあさんが「せんせ。暑いか〜」と窓を空けてくださる。また、「せんせ、一生懸命やな〜」といってくださる方も。
演奏が終わり、拍手で見送られ・・・会場を去るときに、さきほどまで無言で黙って聞いておられた車椅子のおじいさんが 私に握手の手を向けられた。
無言の握手であった。
あとで聞いてみると、そのフロアは認知症の方が入っておられるとのこと。食べた食事のことも忘れてしまう・・・それなのに、私の演奏のことは覚えていてくださって、またの訪問を楽しみに待ってくださる方もいてくださって・・。
音楽の力はすごい。本当にすごい!改めて多少でもピアノが弾けて本当によかったと思った。
ボランティア活動とは、ある程度のゆとりがないとできない。しかし、相手が喜んでくださって、また自分にも勉強になれば、それだけで十分意味のある時間を過ごしているということができるだろう。私は施設に行くたびに、自分の親や自分自身の老後を考えた。
「私はどんなおばあさんになるのだろうか」どんなときでも、その場面場面で前向きに、人生を楽しもうとしている、そんなおばあさんになりたい、そしてやっぱりいくつになっても「かわいい」おばあさんになりたい・・・。
老いることは人事ではない年齢になってきた。よく生き、よく老いる。それが人生なのだろう。
次は、わがふるさとでも、このような活動を始めていきたいと思う。
人はいろんな意味でルーツへ帰っていく・・・。
おじいさんおばあさんのあの拍手やまなざしが、今もずっと脳裏の焼きついている・・・。どうぞ、1日も長く元気にお過ごしください。