以前は海外旅行へ行っても、ひとりで行動するのが好きなので、とくにプライベートなときは、誰にも声もかけず、かけられず、異邦人で過ごすのが心地よかった。しかし、なぜか最近は、自分の世界をもっと広げたいと思っているせいか、縁があり、不思議なことに新たな出会いが生まれている。

1.フィリピン出身マーロン
NYのセントラルパークサウスに位置するホテルで客室担当の仕事をしているマーロンとは1年ほど前から顔見知りだったかもしれない。客として年に3〜4回そこを利用していたし、実際、荷物を運んでもらったこともあった記憶がある。先月ちょうど、ホテルを離れるときに挨拶を交わしたのがきっかけ。なぜか名刺交換をして、そのまま別れた。
そのあと、空港への移動中に手帳をホテルに置き忘れたと思い、空港に着くやいなやさっきもらった名刺の連絡先へ電話をした。すぐに電話がかかって驚いた彼は、それから私が利用した部屋をくまなく探してくれた……そして、「手帳はなかったよ」というメールとファックスが自宅に届いた。(手帳は、自分の鞄の奥から出てきた……)
それから、週に何回かのメールのやりとりがはじまる。マーロンからのメールをかいつまんで再現すると……「元気かい? 今日はどこに行っているの? 仕事は儲かっているかい? きみの夢は何ですか? ぼくの夢はアメリカでお金を稼ぐことだった。そのために家族全員でフィリピンから出てきた。しかし、昨年のテロ以降、株も落ちて、貯金も減ってしまい今は不幸だ。きみはどう?」とまあ、こんな具合。そして次は、家族について聞いたところ、彼には奥さんと子供たちがいるが、長男が、自閉症であり大変な様子であることが書いてあった。経済的な苦労に加え、子育ても……。いろんな苦を背負っていきている様子が伝わってきた。また彼は、マニラ時代はもともとエンジニアの勉強をしていたのに、経済的な理由で今の仕事に移っている。「だから勉強したことは生かされていないんだ」……とまあ、出張の先々で受け取るメールには、いろんな人生があるもんだと驚き、客とホテルマンがメールを介してこんな風に友達になってしまうというのも可笑しなものだと思い、その交信を楽しんでいた。次、NYへ来るときは、空港まで迎えに行くからといってくれたり、また来年早々、フィリピンに帰国する前後に日本にぜひとも寄りたいという。名刺1枚、瞬間の出会いで、こんなに人の距離は変わるものだろうか?

2.チベット出身 ぺルジー
ぺルジーという名前は、変わっている。彼が経営しているブティックもDO KAHMというチベット語。「みんなの憧れ」という意味だそうだ。
ぺルジーの顔を初めて見たのは、いつだったか。いつもNYへ来ると、コーヒー豆を買うリトルイタリーの「カフェローマ」へ向かう途中にみつけた、シルク・カシミア・パシュミナ専門のおしゃれなブティックで、チベットやネパール、インドのファッションをNY風にアレンジし、販売している。デザイナーかつオーナーが、この人である。行くたびに美しい色彩のストールをみつけ、洋服代わりに1枚購入していくのがNY訪問の楽しみのひとつとなっていた。彼はチベットの民俗帽子のデザイナーで、ブルーミングデールなどの高級デパートでも扱われた時代があるほど、その道では有名人らしい。
さる9月11日例のテロの1年後、再びそこに寄った私は、彼に遭遇した。すでに顔はお互いに知っていた。挨拶を交わし、そのあと、いろいろ立ち話をしているうちに、近くのベトナム料理の店へお供することになった。
そのときに、チベット〜インド〜ネパールを行き来した青年時代、そして20代後半にNYへやってきたという話を聞いた。国を逃れて、アメリカンドリームを求めて……という点ではマーロンと同じかもしれない。実はチベット人で、NYへ来たのはぺルジーが初めてだったという。また彼は、ダライラマを崇め、チベット仏教を深く勉強していることがわかった。
同じNYに住み報復、敵、味方だと遣り合っているアメリカ人を見て、嘆かわしいことであるという。今の時代は、自分のことしか考えない人間が増えすぎており、これは地球の崩壊に向かっているようなものだ。他人のことを大切に考えればきっと世界は平和になるのに、それをわかっていない……。ダライラマの影響を受けてか、世界の平和について語り始めるとぺルジーは、ランチの料理も手をつけずに熱く語った。よく英語でそんな話が聞き取れたと思うと不思議であるが、真剣に聞いていると、3〜4割しか聞き取れなくても内容が理解できることがあるものだと思った。
ぺルジーはe-mail を使わないので、AirmailとFAXといった懐かしい方法で交信を続け、今回2回目の対面をした。彼は別れ際に、彼の店で商品を購入されたお客様にセットして渡しているというメッセージカードを何十枚かと、なんとダライラマの写真を封筒に入れて、私に託した。彼なりのささやかな平和運動であろう。チベットという国も悲しい歴史をもつ。早く、彼らが祖国の土を踏む日が来ることを祈りたい。あのテロの1年後にこのチベット人に出会ったことは偶然ではないように思う。
アジア出身の男たちが、このNYへ幸せを求めやってきて、そして一生懸命生きている。こんな人たちとの新たな出会いも大切に。自分の次の道につながるかもしれない。
ぺルジーのデザインセンスをいつか日本にも披露できる日がくるように……。

●ぺルジーがお客様に渡しているカードのメッセージです。

Generating Altruism
May the poor find wealth,
Those weak with sorrow find joy;
May the forlorn find new hope,
Constant happiness and prosperity.
May the frightened cease to be afraid
And Those bound be free;
May the weak find power,
And may their hearts join in friendship.

H.H. Dalai Lama